🟧【商品開発の境界線】食堂の何気ない雑談から。工場に眠る「人の知恵」を生かすヒット商品の作り方

現場(工場)を訪問する際、私はできるだけ現場で働くみなさんと一緒にお昼休憩をとるようにしています。

特別な理由があるわけではありません。ただ、食堂での何気ない雑談の中にこそ、業務の改善点や普段の不満、そして現場の「生の声」が隠れていることが多いからです。コンサルタントとして「アドバイスする側の人間」になりすぎず、現場の雰囲気に溶け込むことで見えてくるものがある。今回は、そんなお昼休憩のテーブルから生まれた、あるヒット商品のお話です。

技能実習生が集まっていた、あるテーブルでの出来事

訪問したのは、従業員約40名(うちベトナムからの技能実習生が数名)の食品工場(そうざい半製品)でした。元々は工場改善の支援でお邪魔していた現場です。

昼食をとっていると、後ろの席から「オネエサン、これホントオイシイ!」という賑やかな声が聞こえてきました。振り返ると、ベテランの女性従業員を囲んで、数名の技能実習生が嬉しそうにお弁当を食べています。

気になって声をかけてみると、そのベテランの女性は面倒見がよく、いつも多めに作ったおかずを持参しては技能実習生たちにふるまっているとのことでした。

「同居している孫が好きで、保育園のお弁当に入れるために作ったの。『おばあちゃん、これ好き!』と言ってくれるから嬉しくてね。多めにできたから持ってきたのよ」

照れくさそうに話す様子と、それを取り合うように食べる実習生たちの姿。あまりにおいしそうだったため、私もひとついただきました。

冷めてもおいしく、子供の口に合わせた小ぶりなサイズ。調理の工夫を聞くと、確かに手作業の工程は多いものの、非常に理にかなったメニューでした。

なぜ、そのおかずは美味しかったのか?

そのベテランの女性の担当業務は、食材の前処理加工でした。実際の作業現場も拝見しましたが、素材の特性を熟知した上で、手際よく的確な処理を行っていました。

おかず自体を作るには前処理以降の工程にも手間がかかりますが、ベースとなる前処理が的確だからこそ、あの食感とおいしさが生まれていたのです。普段工場で扱っているありふれた食材でも、現場の技術と知恵が合わさることで、特別な一品に仕上がっていました。

一方で、当時の開発メンバー(3名)は、近隣の小売店リサーチやネット情報、顧客からのご要望をベースに商品開発を行っていました。大手メーカーほど大規模ではないものの、王道で堅実な開発手法です。毎年、既存品のリニューアルや春夏・秋冬の新商品開発に真摯に取り組まれていました。

現場にはまだ商品化されていない「眠れるヒント」があると感じた私は、工場改善の支援の中で開発メンバーに「社内で『自慢の家庭料理コンテスト』をやってみてはどうか」と提案しました。ルールはシンプルで、「○○をメインにした料理であること」。(※○○はその工場で主に扱う食材です。マル秘事項のためご容赦ください)自社の強みが活きる食材を軸にすることで、新商品へのつながりを意識した提案でした。

開発チームの困惑と、社長の決断

最初、開発チームは乗り気ではありませんでした。これまで培ってきた自社のアプローチとは異なり、素人の家庭料理を商品化することに疑問があったのかもしれません。

しかし、話を聞いた社長が積極的な姿勢を示したことで、第1回の開催が決まりました。

  • 費用:食材費は会社負担
  • インセンティブ:優秀賞3品に社長から金一封(ささやかな額でしたが)
  • 審査員:役員3名、開発3名、私の計7名
  • 審査基準:おいしさ、商品化の実現性など

結果として、自薦・他薦を含めて6名の従業員が参加してくれました。例のベテランの女性はもちろん、他2名が提出したメニューも非常にクオリティが高く、優秀賞に選ばれました。

実はこのコンテスト、商品アイデアを集める以上の効果がありました。多くの工場で起きがちな「現場と開発の相互不理解」という壁を、少し崩すきっかけになったのです。

現場からすれば「開発は自分たちの仕事を理解していない」、開発からすれば「現場は商品づくりの難しさをわかっていない」——こうしたすれ違いは、どの工場でも大なり小なり存在します。しかしコンテストという場を設けたことで、現場の人が開発の目線を持ち、開発メンバーが現場の技術と知恵に触れる機会が生まれました。審査の場で互いの仕事を「見せ合う」体験が、その後の連携をスムーズにする土台になったのです。

現場の知恵を、ライン(製造工程)へ落とし込む

受賞したベテランの女性のおかずについて、開発メンバーへ共有し、「後工程をうまくライン化できれば、面白い商品になるのではないか」と提案しました。

当初は設備面の制約や工数増加の懸念から慎重な姿勢だった開発チームですが、現場と一緒にラインテストを重ねる中で、徐々に課題をクリアしていきました。手作業のニュアンスをどう機械工程に落とし込むか。現場の技術を活かしながら効率化を図る試行錯誤の末、ついに商品化へと漕ぎつけました。

発売後、この商品は順調に売り上げを伸ばし、現在では近隣のスーパーや小売店の店頭にもしっかりと定着しています。

「次のヒット商品」は、現場に眠っているかもしれない

この事例で印象的だったのは、ヒントはすでに工場の中にあったという点です。市場調査や競合分析ももちろん重要ですが、毎日現場で手を動かしている従業員の「生活の知恵」や「職人的な技術」の中にこそ、商品開発の原石が眠っていることがあります。

そしてもう一つ。大企業では部門ごとの役割分担が明確なため、現場と開発が日常的に交わる機会はなかなか生まれません。しかし中小メーカーだからこそ、現場と開発の距離が近く、一つのきっかけで両者がつながりやすい。この「垣根の低さ」こそが、大企業には真似できない中小メーカーの強みです。今回のコンテストは、その強みを意図的に引き出した一つの事例でもありました。

「新商品のアイデアが出てこない」「開発メンバーだけでは行き詰まりを感じている」——そうした壁にぶつかっているなら、一度、現場の声に耳を傾けてみませんか?Co-Creation Studioは、工場の現場から商品開発まで、隠れたポテンシャルを引き出す共創パートナーです。

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